スペシャルインタビュー
花⽕師・野村陽⼀
魁のまち・⽔⼾から⽣まれた⽇本⼀の花⽕師
⽣まれは茨城県の⽔⼾。⿊船来航の嘉永年間に⽣まれた曽祖⽗・野村為重が、明治8 年(1875年)に⽔⼾で花⽕師として会社を創業したのがはじまりで、明治38年に始まった⽔⼾の花⽕⼤会でも花⽕を打ち上げたそうですよ。当時は花⽕の製造・打上のかたわらブドウ園、養蚕、印刷業と⾊々⼿がけていたみたいだけど、三代⽬の⽗・野村泰久からは⽣涯いち花⽕師となって花⽕⼀筋。平成元年に四代⽬を継いだので、もう三⼗数年かな。振り返ると、野村花⽕として150年近い歴史がありますね。
⽔⼾のまちは、第9代⽔⼾藩主の徳川⻫昭公が「天下の魁(さきがけ)」と詠み、他のものを先んずる精神をもつ「魁のまち」。その魁の精神で、常に新しい発想、⼈とは違う道を探求して、技術を磨いてきたつもりです。その道が正しかったのかはわからないけど、平成3 年に⼟浦の花⽕⼤会で初めて優勝した時は嬉しかったですね。それからはどんどん勢いがついて、秋⽥の⼤曲や東京の隅⽥川、三重の伊勢神宮といった全国の花⽕⼤会で何度も優勝して。内閣総理⼤⾂賞は19度もいただいて、⾝に余る名誉です。でも⼀番嬉しかったのは、令和元年の⽔⼾市⽂化栄誉賞。どの賞ももちろん光栄だけど、やっぱり⾃分を育ててくれた地元⽔⼾から評価してもらえたのは、格別ですよ。




光の芸術。夜空を彩る「野村ブルー」
どこから⾒ても丸く⾒える菊型の花⽕は、実は⽇本独⾃に進化したものです。野村花⽕のこだわりは、その菊型花⽕で、直径250メートルを超える10号⽟。そこに五重の芯を⼊れる。⼀発の花⽕で、中⼼の芯と合わせて6⾊の花⽕が、同⼼円上に広がり⼤輪の花を咲かせる。⻘、⾚、⻩、銀緑、⻘紫……、それぞれの⾊が綺麗に出た時は、本当に美しいですよ。
とりわけ⾊では、「⻘」にこだわってきました。⽔⼾は⽔の⼾だから、⽔の⻘。空も⻘。⽇本⼈は結構、⻘が好きなんです。品のいいイメージもあるし、他の⾊との配⾊もいい。⻘は映える⾊だから、かなり研究したし、今もまだまだ研究中です。その⻘⾊を「野村ブルー」なんて⾔われることもあって。他社さんの⻘⾊も素晴らしいけど、野村ブルーは明るくもなく、暗くもないのが特徴かな。何千回、何万回と試⾏錯誤の末にようやくたどり着いた⻘だから、評価してもらえるのは嬉しいですね。
どんな世界も同じだろうけど、ものづくりの基本は95%まではほぼ⼀緒。でも、そこから枝分かれしていくわけで、残り5%の創意⼯夫で進化していくもんだと思いますよ。特に10 号⽟のような⼤⽟の花⽕は、試し打ちができない。本番で成果を確認するしかない。芯が少しでも崩れてしまえば、花⽕は丸く開かない。中⼼の親⽟がクリアに⾒えてはじめて、周りの芯との調和も美しく⾒える。五重芯ともなれば、⽕薬の調整も⼤変。使う炭もいろいろ試したし、⽟に貼る紙の強度を微妙に変えてみたり。⼿作業ゆえの難しさではあるけど、だからこそ、他の⼈には真似できない野村の花⽕ができるわけです。⾊にとことんこだわって、極限まで追求した美しい花⽕をお⾒せする道に、終わりはないです。




唯⼀無⼆の歌舞伎俳優・市川海⽼蔵とのコラボ
5 ⽉22 ⽇の『⽔⼾歌舞伎花⽕』は、楽しみですね。歌舞伎とのコラボは初めて。しかもお相⼿が、あの市川海⽼蔵さんだから。いやでも⼒が⼊りますよ。野外の歌舞伎⾃体が新鮮だろうし、⽬線の⾼さの舞台で舞う海⽼蔵さんの背後を花⽕が彩り、澄み切った夜空にも花⽕が咲き誇る。歌舞伎と⾳楽と花⽕の融合。コンディションさえよければ、ダイナミックで素晴らしいイベントになると期待しています。
広⼤な千波湖と偕楽園。どこからでも花⽕を⾒られる⽔⼾の花⽕⼤会は、実は全国的に最も素晴らしいシチュエーションの⼀つなんです。千波湖に映る10号⽟の花⽕の迫⼒は、それはすごい。さらに湖岸も使えるから、⾳楽に合わせたスターマインは、⻑くワイドな演出もできる。これまで賞をいただいた花⽕もふんだんに使いながら、独創的な花⽕も交えた構成になるでしょう。⽔⼾の皆様をはじめ、訪れる⽅々に最新式の花⽕をお⾒せしたいと考えています。
強烈な光と⾳によって、嫌なことも悩みも全部吹き⾶ばしてしまう。そんな癒しの効果と⼼の洗濯の⼒があるのが花⽕なんです。はじめて花⽕を⾒たと⾔われる徳川家康の時代から、400年以上も続いてきたのも、そういった効果があるからでしょう。コロナで沈んでしまっている皆様の⼼を少しでも癒せたら、気分を少しでもクリーニングできたら。コロナ禍の今だからこそ、花⽕が必要なんじゃないか。そう思うんです。たった⼀発で⾒る⼈に夢と感動を与えられるような魂を込めた花⽕。楽しみにしていてください。






花⽕師・野村陽⼀プロフィール
1950年、茨城県⽔⼾市⽣まれ。明治⼤学卒業と同時に花⽕師としての修⾏を始める。1989 年(平成元年)に、四代⽬として野村花⽕⼯業株式会社の代表取締役に就任。1991 年に「⼟浦全国花⽕競技⼤会」10 号⽟の部優勝。以後、数々の全国の花⽕⼤会で優勝を飾る。これまで内閣総理⼤⾂賞を計19回受賞。2013年、「現代の名⼯」選出。2014年、「⻩綬褒章」受賞。NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』、TBS系『情熱⼤陸』などテレビ出演も多数。
⽂/⼩林みちたか
取材撮影/梅原渉・村山春樹
花⽕映像提供/圷範道
花⽕写真提供/上⽥悠平